OTW戦略的ビション(2022〜2025年度)

OTW(変形的作品のためのNPO)はこのたびビジョン・ステートメントを発表いたします。以下の文書は本NPOの新たな戦略計画におけるフレームワークです。今後12か月をめどに、これらを実現するべく具体的な目標や行動計画を決定していく予定です。最終的な計画は状況に応じた柔軟なものである必要がありますが、このビジョン・ステートメントではOTWをより良いものとし引き続きファンのためのサービスを提供できるように、我々が取り組むべき課題の大枠を述べています。

ミッション・ステートメント

OTWはファンによって設立された非営利団体であり、多種多様なファン作品やファンカルチャーにアクセスできる場を提供したり、その歴史を保存したりすることによって、ファンの利益になることを目的としています。わたしたちは、ファン作品は変形的であり、変形的作品は正当なものであると信じています。

OTWは、これまでに実践されてきた変形的ファン作品を代表するものであり、それは女性が中心となって作られてきた文化に歴史的に根ざしています。OTWはその歴史を保存するとともに、ファンダムの中からその文化的アイデンティティをあらわす新たな非メインストリームの表現が生まれるよう、ミッションを遂行していきます。

戦略的ビジョン

OTWの今後3年間のビジョンは、安定・一貫し連携のとれた成長しつづける組織であること、そしてファンダムやそれ以外の場での自らの役割を進んで果たし、これまでどおりファンのために活動する組織であることです。

OTWはこの戦略計画を用いて組織内における改善を果たし、既存のボランティアが長く活動できるようなサポート、新たなボランティアの獲得、透明性の向上、さらに世界中の多様なファンのために活動ができるよう組織のキャパシティ向上を目指します。

優先事項と課題

OTW内でのビジョン策定に関する議論を通し、今後3年間で、優先すべき事項を6つ、取り組むべき課題を5つ決定しました。

優先事項

  • AO3の開発
  • 組織内のサステナビリティ
  • ガバナンスの向上
  • 有給スタッフ
  • 外部とのコミュニケーション
  • 資金集めの多様化

課題

  • 組織の縦割り構造
  • ボランティアの定着率と新規採用
  • 場の多様化
  • 法的問題への取組み
  • 一般向けナラティブ

以下に詳細を述べるこれらの優先事項と課題を念頭に置き、戦略計画を策定していきます。

優先事項

OTW内でのビジョン策定に関する議論を通し、今後3年間で優先すべき事項を6つ決定しました。

AO3の開発
Archive of Our Own – AO3(みんなのアーカイブ)のインフラ整備を今後も進めていきます。この中には、ハラスメントの予防と撲滅、ユーザーが自らカスタマイズできる環境の開発、非英語話者のユーザーにとって使いやすいインターフェース作成、そしてマルチメディアサポートの拡充といった目的のためのツール開発が含まれます。これらの新機能はAO3の開発ロードマップとも一致しており、既存のコーディングの優先順位や現在行っているメンテナンスがそのために影響を受けることはありません。

組織内のサステナビリティ
OTWは組織内の委員会のサステナビリティを高めるため、職務の引き継ぎ体制を整えるとともに、多様な新規採用、権限の委譲、ボランティアの継続参加、ドキュメンテーション、衝突や対立発生時のマネジメント、組織内コミュニケーションに注力します。

ガバナンスの向上
2017~2020年の戦略計画において策定されたOTWの新たなリーダーシップ像に関する提言を引き続き更新し、実践します。

有給スタッフ
現在の組織の枠組みに、少数の有給スタッフを導入するモデルを模索します。これはボランティアの役割に取って代わるものではなく、ボランティアを中心とした組織において持続可能な活動をするために必要なインフラを提供するものです。有給スタッフ導入を進めるため、理事会によって有給スタッフ委員が任命されます。

外部とのコミュニケーション
OTWのミッションの認知度向上、一般へ向けたメッセージの一貫性向上とリーチ拡大、さらにOTWメンバーに対しても外部に対しても組織としての透明性を高めて広報の改善をはかるため、外部とのコミュニケーション方法を改革します。

資金集めの多様化
OTWの資金的安定性を高めるため、従来の資金集め以外の非営利的・非広告的な方法や、低リスクの投資などを検討します。これまでと同様、OTWの資金調達にかかわる実務が非営利団体としてのベストプラクティスに沿うよう努めます。

課題

ビジョン策定作業中、OTWのリーダーたちとボランティアたちは、OTWが現在または今後3年以内に直面しうる課題について明確にするよう努めてきました。本組織の未来に寄与するため、またわたしたちの活動に関するステークホルダーへの透明性を高めるためにも、これらの課題に積極的に取り組んでいきます。

組織の縦割り構造
OTWの組織構造には縦割りの傾向があり、
組織内のそれぞれの部署が、自らの活動範囲に直接関係しない他部署の活動について知ったり関与したりする機会は多くありません。

このことは、組織全体で行うプロジェクトや取り組み、内部のコミュニケーション、透明性、ボランティアの定着率、各委員会のサステナビリティに影響を与えています。協力しようにもそのためのメカニズムが存在していないからです。組織内のそれぞれの部署がリソースを共有したり協力したりできなければ、各委員会はリーダーの突然の交代、有事の際の仕事量増加などに際し、各々で対応せざるを得なくなります。

  • サステナビリティを高めるため、今後は内部コミュニケーションの改善と組織としての一貫性の向上を目指します。
  • ガバナンスと人員構成に関する今後のモデルは、縦割り構造についての取り組みを含むものとします。

ボランティアの定着率と新規採用
OTWの委員会の多くはメンバーの入れ替わり率が高く、新規採用・育成・採用したメンバーの離脱というサイクルに陥っており、新規採用活動を頻繁に行わなければならない状況にあります。採用活動が各委員会のニーズに合った新規メンバーを十分に、時には一切獲得できていないのではないかという共通の懸念があります。

このことは、活動期間の長いボランティアや知識・経験のある人々(“主要メンバー”=linchpins)のバーンアウトや仕事量に影響を及ぼしています。これらの人々の負担は、新しいメンバーが加入しても軽減することはありません。採用活動と育成は他の仕事にあてる時間を奪うため、委員会の全体的なキャパシティにも影響します。

  • サステナビリティを高めるため、今後は各委員会のニーズに応じた質の高い新規メンバーの獲得数上昇、新規メンバーの定着率向上、そしてこれまで主要メンバーがついていた責任ある役職への新規メンバーの登用を進めます。
  • 有給スタッフの導入が実現した場合は、主要メンバーの負担を軽減するよう有給スタッフを配置します。

場の多様化
OTWは、すべての人々にとって安心できる場、とくに黒人と有色人種のファンにとって安心できる場を作り出すことに率先して取り組んでこなかったという正当な批判を受けています。この怠慢により、ダイバーシティに優先的に取り組むためのツールや目標や戦略がOTWのすべての部署で導入されておらず、多くのファンやボランティアがAO3やOTWにおいて歓迎されていないと感じる結果となってしまっています。

今後はOTW内のダイバーシティとインクルージョンを高めるためのプロセス実践に努め、OTWにおいてボランティアが積極的に歓迎され、いかなる差別に遭遇した時もしっかりとサポートを受けられるシステムを確立するためのポリシーの導入を進めます。

また組織の欠陥を評価し文書化するためのリソースを新たに割き、見過ごされてきた問題があればそれを予防的に発見できるような新たなメカニズムを作り出します。こうした努力は、非米国出身・非西洋文化圏出身のボランティアならびに米国や他の西洋文化圏のエスニックマイノリティのボランティアの意見を尊重しながら、またあらゆる段階でそうしたボランティアたちが参加しながら行われます。ダイバーシティとインクルージョンに取り組む例として、わたしたちが現在考えているのは以下のとおりです。

  • OTWの組織やプロジェクト内における人種による偏見や不平等について、コンサルティングを行う個人または組織と契約を結びます。
  • OTWの現在のリソースを用いてダイバーシティ向上に取り組むため、ボランティア人事チームを創設します。この人事チームは既存のワークフローの中で活動し、例えばさまざまな部署のボランティアとのチャットの場を設け、組織内やプロジェクト内でのボランティアの体験に影響を与えるようなOTWのポリシーについて、ボランティアが意見の提出や助言、相談、情報提供を行えるようにします。
  • OTWのボランティア募集広告をOTW以外のウェブサイトに掲載するなど、新規採用活動の範囲を拡大し、役職の候補者に多様性がでるようにします。
  • ユーザーにとってさらに安心できる環境を作り出すため、ブロックや常時フィルタやその他カスタム機能など、各ユーザーが自らの体験をよりコントロールできるツールの開発を引き続き進めます。 これらの機能は、ユーザーの表現の自由を保持しつつ、コンテンツや他のユーザーとどう関わっていくかを個人が自ら調節することを可能にします。

法的問題への取り組み
OTWはこれまでに、変形的作品という分野に関わるさまざまな法的問題を第三者として、また当事者として経験してきました。それは、変形的作品の分野全体を揺るがすような新たな法律の制定であったり、既存の法律に基づく攻撃であったりします。こうした法的問題は今後も起こりつづけると予測しています。

こうした問題に第一線で対応するのは法的サポート委員会ですが、法的問題によりプロジェクトの利用規約の改定や、非営利団体としての内部運営の見直しなどの大きな変更を強いられると、組織のすべての部署が影響を受けることになります。

  • サステナビリティを高める努力の一環として、本組織の強力な法的サポート委員会が引き続き活動できるよう支援します。
  • .ガバナンスと人員構成に関する今後のモデルは、組織の機動性と柔軟性を担保し、わたしたちのいるこの変形的作品という分野の急速な変化に常に対応できるようにします。

一般向けナラティブ
多くのファンダムコミュニティにおいてAO3は広い認知度を誇りますが、OTW自体はあまり知られておらず、組織の歴史・目的・仕組みなどはあまり広く理解されていません。OTWの活動の主なターゲット層においてもしばしば誤解が見られ、広報において問題に直面することがあります。

今後はOTWメンバーに対しても外部に対しても、OTWの存在とその活動についての透明性を高め、広報の改善を目指します。これにより、メッセージやミッションを主なターゲット層に伝えることがより可能になり、OTWの役割が一般の人々にとって不透明であることによる資金集め上の困難を軽減します。一般向けナラティブの拡大・効率化の例として、わたしたちが現在考えているのは以下の通りです。

  • OTWの目的とミッションをターゲット層(ファン作品のクリエイター、読者、寄付者、研究者、さらに一般の人々)に伝える機会を増やします。例えば、OTWの歴史や目的、仕組みなどのコンテンツをインフォグラフィックで伝えるなど。
  • 各委員会に、それぞれの仕事とOTW全体における位置づけを説明した一般向けのビデオコンテンツの作成を検討することを奨励します。これにはチュートリアルや解説、最新の動向を短く紹介したものなどが含まれます。こうした形式は、従来のテキスト主体のコミュニケーションアプローチよりも一部のユーザーにとっては接しやすいかもしれません。
  • OTWの透明性改善と認知度向上を目指すため、またわたしたちのミッションとナラティブを効果的に伝えるために、コミュニケーション戦略を改革します。

変形的作品のためのNPO (OTW)は、AO3、Fanlore、オープンドアプロジェクト、変形的作品とその文化研究、そしてリーガル・アドボカシーなど複数のプロジェクトを抱える非営利組織です。私たちはファンによって運営され、寄付によって支えられ、スタッフは全てボランティアの組織です。より詳しくはOTWのウェブサイトをご覧下さい。私たちのボランティア翻訳者のチームや、この投稿の翻訳者について知るには、翻訳委員会のページをご覧下さい。

Announcement

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